「ありがとうございます。△△の牧野内でございます。」何度この言葉を繰り返したのだろう。食品メーカーのお客様相談室に就いて8年。この間、食中毒やBSE問題など食を巡る事件が多発し、食品業界は厳しい状況に晒された。一斉に鳴り出すベルの音、お客様の意識が会社を行政をそして法律をも変えてしまう潮流を経験してきた。 当初は企業が作ったものをお客様に提供し、お申し出があれば対応すると言った一方向な仕事が多かったように思う。しかし今では品質はもちろんのこと表示などの適切な情報提供、それをお客様がどのように受けとめ、どこを改善すればもっと商品が良くなるのかなど双方で商品を育て、向上させていくことが重要になってきている。お客様と企業のパイプ役として担う役割が大きいゆえに、お客様対応は正しかったかご満足いただけたか、そしてその声を経営(商品)に反映させているかなど検証すべき課題は多い。 そんな日々の中、日本ヒーブ協議会でスローフード運動の発祥地であるイタリア視察旅行に参加する機会に恵まれた。4日目はミラノにあるペック(PECK)で経営者から経営理念、スローフード運動、日本の消費者に対する考えを伺い、併設のレストランで会食をする予定になっていた。ペックは@高い品質 A良いサービス B美的なセンスを経営理念とするイタリアを代表するファミリー経営の老舗高級食料店である。グルメガイドには必ず登場し、日本にも出店しているのでご存知の方もいらっしゃると思う。朝一番に美しくディスプレイされた店内を見学し、会議室に通される間、厨房の入り口で待っていると、そこには経営者の1人であるストッパーニ氏が若い職人に混じって黙々とエビの殻むきをする姿があった。厨房は店内からちょっと覗けば見えるところにある。経営者が自ら現場に立ち、右目でお客様を、左目で従業員を見守っていた。「僕達は歩いた時から働いているよ!」といたずらっぽくウィンクしたが、そんな簡単にできることではない。こうやって毎日毎日厨房に立ち、お客様の信頼と味を真摯に守ってきたのであろう。イタリアの伝統と食文化を支える原点を垣間見る思いがした。 感動を下さるお客様、時にはきついお叱りを受けて落ちこむ事もある。正直に言えば電話にでるのが怖い時もある。そんなとき私はペックに立ち寄る。(もちろん日本の)店には経営者達のパネルが飾られ、銀髪のストッパーニ氏も微笑んでいる。氏の穏やかな笑顔はあの時の感動と、現場に立ち続ける事の大切さを教えてくれる。明日も「ありがとうございます・・・。」と言えるように。 日本ヒーブ協議会とは 日本ヒーブ協議会は、企業の消費者関連部門で働く女性の会で、 1978年に設立されました。生活者と企業のパイプ役としてよりよい 仕事をするために、能力の向上を目指して、自主的に集い積極的に 活動しています。多くの業種から幅広い業務に携わっている人々が 集まる異業種交流という特徴をいかし、情報や意見交換を活発に行 い、企業活動や消費生活に役立てています。 〜日本ヒーブ協議会HPより抜粋〜 |
column 002 イタリアに学ぶ 牧野内佳久子 第11期消費生活アドバイザー |
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