リリーンと鳴った電話を取る時の一瞬の緊張感。
お客様からの直接の電話は、社内間の電話と違って、内容や状況の予測が出来ない。

それだけに、ドキドキしながらも、丁寧な応対を心がけたことが効を奏して、受話器の向こうの、お客様の苛立っていた声がだんだんと穏やかな口調に変わり、安心したのを見届けて(聞き届けて)話を終える時の満足感は、またひとしおである。

直営の宝石店を全国に持つ会社で、お客様からのフリーダイヤルの仕事に関わるようになって、5年近くになった。苦労したこともあったけれど、以前よりも私を「聞き上手」にしてくれたのは、他ならぬ、お客様からの率直な電話であったと思う。

お客様対応の仕事にはだいぶ慣れてきたかなと思う反面、何時までたっても消えないジレンマもあった。それは「お客様の状況や気持ちは理解出来るけれど、現実にはお客様の言葉通りの要望をのむことはできない」と思われる時の、会社とお客様の板挟みになった時の対応の仕方であった。

特に、購入から長い時間を経ての、返品や修理、再購入などの問い合わせには、お客様の感情や思いがこもっている品であればあるほど、なんとかしてほしいという要望が強くなりがちで反対に、対応が難しいとしか回答出来ないことに内心、葛藤も感じることもあった。

そんな折、一件の電話が私のジレンマの、解決の糸口になった。

 「直営店で購入したはずのネックレスなのに、(自社商品である)刻印が見つからないから修理が不可能と、来店時断られたがもう一度相談にのってほしい」という、穏やかな口調のお客様からの電話であった。お客様に何らかの確信があり、それでもお店で対応不可といわれた後の相談窓口への電話は、大方、立腹しながら話が始まることが多い。けれども、そのお客様は、「店の人がまずはよく話を聞いてくれた」という思いがあったからこそ、もう一度、会社のフリーダイヤルにかけてみようという気持ちになった、と来店時の事をとても丁寧に好感をもって話をしてくださった。

私はその時、まず相手の状況に耳を傾けて聞くことの大切さをあらためて、お客様から教えていただいた気がした。まずは、お客様の気持ちを肯定的に受け止めること。たとえ、お客様にとってベストな回答がその時、期待できなかったとしても、お客様の怒りを和らげるだけの気持ちが伝わったなら、お客様と会社とのコミュニケーションは、次につなげる余地を残すのだということを。

8月から移った消費財メーカーでのお客様相談センターでも、お客様との一つ一つの出会いを大切に、会社とお客様の間を結ぶ、より感度のよい、コミュニケーターをめざして勉強していきたいと思っている。

column 013
 よりよいコミュニケーターを模索して
 石川 佳子 23期消費生活アドバイザー
Home ColumnTop