私は鉄道旅行が趣味なので全国の様々な乗り物を利用します。 群馬県のJR高崎駅はよく利用する駅の一つなのですが、在来線ホームの駅事務室の中にはこのような標語が掲げられています。(事務所の窓越しに乗客が見える位置に掲げてあります) 「たった一言が人の心を傷つける、たった一言が人の心を温める」 この標語を見る度、戒められているような励まされているような、とても大切な事を教わっているような気になります。そしてこの標語を実感させてくれるような出来事が2年前の夏、関西地方を旅しているときにありました。 「あれ、携帯がない!」 そう気づいたのはその日3回目の乗り継ぎを済ませた直後の、あるローカル線の中でした。夕方には大阪勤務の同期に再会するためにもその日の旅行に携帯電話は必須でした。 あわてて次の駅で降りてみたもののどうすることもできず、落とし物探しのためにもと来た路線を逆流して届いていないか尋ねる作戦に出ました。 慣れない土地での落とし物という不安を抱えながら、藁をもすがる想いで乗り継いだ駅の係員さんや忘れ物窓口に問い合わせますが、「届いていないです」の返事ばかり。応対は丁寧でも暗に「諦めて下さい」と言う感じの話をするターミナル駅の忘れ物窓口や「落とした貴方が悪いんでしょ!!」と言わんばかりのぶっきらぼうな応対をする老年の駅員もいて、落とした自分の情けなさに追い打ちをかけます。 結局3時間ぐらい探し回った末、携帯本体の捜索は打ち切って機種変更で対応することにしたのですが、眠気と疲れも加わって頭の中は全くあてにならなかった鉄道会社への批判の言葉でいっぱいになっていました。 さて、旅行を再開しようとホームへ向かったところ、優しい関西弁の口調で「携帯、見つかりましたか?」と私に声を掛ける人がいました。その人は2時間ほど前に忘れ物の問い合わせをした運転士さんでした。その運転士さんにも忘れ物の相談をしたのですが、列車を発車させるわずかな間の相談でしたので、まさかその後に再会して声を掛けてもらえるとはは思っていませんでした。運良く一往復して戻ってきたところで再会できたのです。 そのローカル線はワンマンカーの上、駅もほとんどが無人。自分で運転士・車掌・駅員を全部やらなければいけない大変な仕事だと思います。そんな中でも困っている乗客に思いやりを持って接してくれるのはお客様を大事にする関西の気質、そして何よりもその運転士さんの人柄なのかな、とも思います。 私は「大丈夫です。ありがとうございます。」とちょっとテレ気味に話して彼の運転する列車の乗客になりました。「ちゃんと自分の事を覚えてくれて、心配してくれていたんだ・・・・。」それまでの疲れも癒されるような素晴らしい『暖める一言』でした。鉄道会社への批判の気持ちなどどこかに消え、元気に旅行を再会することができました。そしてこの忘れ物騒動は忘れられない大切な旅の思い出となりました。 振り返ってみると販売の仕事に就いて3年目、アドバイザーになって半年になりますが、お客様にどれだけ『暖める一言』を言えたのか、逆に『傷つける一言』を言ってしまっていたのでは、と心配になったりもします。 ただ一つ確実に言えることは、お客様から私たちへの『暖かい一言』があったからこそ、私は販売の仕事を続けることができたと言うことです。 プロとして、お客様に思いやりのある一言がかけられる販売員になると同時に、暖かいねぎらいの言葉が買い物したお店の人やレストランで掛けられる、そのねぎらいの言葉を糧にもっとその人達が消費者のために頑張れるようになる、そんな消費者になってみようかなと思います。 |
column 018 携帯電話を落として学んだ事 向井 崇広 第24期消費生活アドバイザー |
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