「お客様相談室」や「ADR」の交渉業務に携わって25年余。数々の方に対峙し、ときに怒られ、ときに感謝され。。。堅気でない方を相手に身の危険を感じたこともありましたし、あまりに悲惨な事故の被害者を前に大きな動揺をすることも少なくありませんでした。 そんな中、一つ一つのクレームに懸命に向き合い解決し続けてきたことにより、やがて、交渉のプロとして、企業の苦情・クレームの解決シナリオを策定したり、応対者の教育をしたり、苦情対応マネジメントシステムの構築をお手伝いすることが可能となり、私は、現在、危機対応会社を経営しています。これは、欧米でClaim Settlement Firmと呼ばれる業態です。 私が扱う事件・苦情・クレームの多くは、既に何人かの方々が関与し、なお解決を図ることができなかったケースです。複雑にもつれあった問題の糸は、何をしても解けないように見えます。しかし、どんなに複雑に見えるクレームであっても、解決の糸口は必ずあるものです。肝心なのは、クレームの本質の周りに生じる様々な問題に翻弄されてしまって、クレームの本質を見誤ることがないようにすることでした。 例えば、こんなことがありました。妊娠した女性が口にした食品に異物が混入していたという事故が発生した時のことです。被害に遭われた方が、知人に問題解決を任せたところ、この知人は、声を荒げ激しく企業を威圧してきました。担当者たちは、その強く攻撃的な行為にいかに対応するかということに注力しはじめ、多くの関係者がこの事故の本質を見失い、声高に激昂する知人の行為を収めることこそが、この問題の解決であるかのように誤認されていきました。 私は、事の経緯をヒアリングすると、まず、この知人の方を窓口とする交渉の中止を決め、被害に遭われたご本人に直接話をさせていただく道筋を整えました。結果、このケースは、急速に解決へと動き出します。すぐにご本人の健康被害調査を行い、間もなくして、幸いにも異物の母体への影響がなかったことが判明しました。 この結果を受けたお客様が初めて「もしもお腹の子供に何かあったらどうしようかと毎日不安でした」と、この数日間の思いを語られました。担当者たちは、この言葉に、自分たちがクレームの本質を見誤り、本来最優先されるべきことを放置していたことを気づかされました。 怒声、わがままとも思われるご主張、あるいは逆にこれといった要求をなさらない静かな口調などによって過大・過小に粉飾されたクレームの本質を見極め、名実共に「公平」な解決を行う必要があります。 「事実は小説よりも奇なり」・・・常に、疑いだけを先行させずに、お客さまのご不満を解決に導く役割が私たちに求められていると信じています。
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column 020 怒声の向こうに 柳澤 元彦 第23期消費生活アドバイザー |
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