最近企業の価値について、コーポレートブランドが注目されています。今までの企業評価が財務諸表に基づいてなされているのが普通ですが、その数字はあくまでも結果の表示であり、将来に対しての予測は含まれていません。それに対してインタンジブル(無形資産という意味で、顧客資産、コーポレートブランドなどをいう)がその企業の将来を予測する重要なポイントであるとの認識が出来つつあるからです。ただ、コーポレートブランドを測る指標が固まっていませんので具体的な比較はまだ難しい状態です。(一ツ橋大学伊藤邦雄教授による、CBバリュエーターによる評価が有名ですが、中身が不明ですので自己分析が出来ないのが欠点です)

ではそもそもブランドをどのように定義したらよいでしょうか。私は佐藤知恭先生による次の定義に帰結すると考えます。『ブランドとは顧客の信頼によって裏書された特定の企業及びその企業の提供する商品・サービスに対する保証である。ブランドは顧客への約束の積み重ねられた実行の結果、顧客の心象の中に形成される安心感と信頼のシンボルである』

このように、ブランドは顧客が定めるものですから、数値評価がなかなか難しいともいえるのです。

しかし、ブランド価値を高める方法については、デビッド・アーカーを始め多くの研究があるのですが、最近スコットM.デイビス、マイケル・ダン共著による顧客と企業のコンタクトポイントに絞って考える戦略が認められています。

顧客と企業のコンタクトポイントは大きく分けて、購買前体験、購買体験、購買後体験の三つのステージに分けることが出来ます。デイビスはその三つのステージごとに、企業側、購買者側に分けてコンタクトポイントを説明していますが、ここでは簡単に三つのステージの現象を考えて見ましょう。

購買前体験はカタログ、広告などによる企業との接触です。購買体験は実際の商品を見ること、その性能を他社と比較すること、価格の比較、を検討して購買担当との接触により購入することです。購買後体験とは、実際に製品を使用すること、その品質を理解すること、使用問い合わせ、修理、サプライ商品の購入、苦情の申し入れ、などがあります。

この三つのステージを比較すると、サービス業界以外の業界では、企業が直接顧客に接触する機会があるのは購買後体験のステージが最も多いことが判ります。(サービス業界では購買体験でも顧客との直接の接触が発生します。) つまり、直接顧客に接触して、企業の特徴を訴えることができるのは購買後体験であり、一方顧客にとっては、直接接触した体験が、企業の信頼、安心を一番高める機会であります。

また、購買後体験でもうひとつ重要なのは、製品の使用体験です。購入目的は製品を購入して期待どおり活用できることであり、使用後の各種サービスを含めて、佐藤先生のブランド定義でいう、約束の積み重ねに他ならないのです。

さらに具体的に企業の中について考えて見ますと、購買後体験を担当する部門はまずお客様相談室でしょう。製品の使用体験は別ですが、それを元にして意見や苦情の引き受け部門、修理部門、その他使用問い合わせなど多くの使用後体験はお客様相談室に持ちこまれます。この対応如何で顧客のブランドイメージが決定し、リピートオーダーへの率が変わってくるという現実を考えると、今後お客様相談室の役割の重要性がクローズアップされることは間違いないことでしょう。現在はややもすれば、コスト削減の格好の目標となっているお客様相談室ですが、コーポレートブランド形成に大きな役目を果たし、将来の企業発展の基礎にもなることを考えればその地位は当然変わってくるものと考えます。つまり、お客様相談室はコスト部門ではなく、将来の発展のための投資部門として考えなければならない時期に来ていると考えます。某大手企業では、顧客からの声は、出来るだけコンピュータのQ&Aに集約したい、あるいはコールセンターは中国に移転させたい、などの施策が喧伝されていますが、実際は顧客の声は直接人間が聞いてニュアンスも汲み取り、その意向を企業の将来に生かすという姿勢が問われることになろうと考えます。

コーポレートブランド向上(つまり企業の永続的成長)のためには、お客様相談室の地位を企業の中心に据えて、購買御体験に対する認識、対応を真剣に検討し、現場に徹底する必要があると考えます。

column 022
コーポレートブランドに占める購買後体験の重要性
島村 治雄 第15期消費生活アドバイザー
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