消費生活アドバイザー25期の中島賢一郎です。
パソコンメーカーのお客様相談室の室長として仕事をしております。
4年前、晴天の霹靂でお客様相談室への異動を告げられました。それまで生産管理部門や商品流通部門にて社内の人達との関係のみで約30年勤務していた私にとって、個人のお客様の苦情対応をする事など思いもよらぬ事であり、不安ばかりのスタートでした。
私共の会社は元々、電電公社殿の通信機器や大企業様の電算機システムのご提供にドメインを置く企業で、一般消費者には縁の薄い成り立ちでありました。そこに90年代初めより、一般家庭にも文書作製機やパーソナルコンピュータが導入される気運が生まれ、その方面にも商品を投入し始めた、いわばコンシューマ向け商品では歴史の浅い企業と言わざるを得ません。従って始めの頃は、お客様の苦情など処理してくれる部署があればよいとの考えであったと思われます。パソコンが一般家庭に浸透し当社製品を多数のお客様がご使用されるにつれ、「サポートの強化と苦情対応の重要性」を痛感して慌ててお客様相談室の陣容を整えようとのことであったと思います。
お客様相談室の室長として対応を始めた頃の印象に残る事案を述べたいと思います。
まずパソコンの故障に関する苦情でした。お客様は男子の大学生で、お使いのパソコンが「故障しがちで使い物にならない。提供されたデーターバックアップ用のハードディスクだけでは心配だ、予備としてパソコン1台よこせ。不法行為で訴えるぞ!」というものでした。確かに故障が多いというのは当社製品に問題があるかもしれませんが、だからといって予備としてもう1台よこせとの要求は過剰すぎると思いました。「予備1台の提供には応じかねるが、ご不便をお掛けしましたので装置まるごと交換しましょう」と言い、お使いのパソコンと同等のOSを搭載したパソコンを提案しました。ところが、「そんな型落ちの中古品を提案するとは失礼極まりない」との反論です。チョット待て!追加したアプリソフトが使えることを条件にしていたのはお客さんだろう。当時は新OSが巷に出回ったばかり。新OS搭載の機器と交換したら、今度は新OS対応アプリも提供しろと追加要求を出すつもりでしょう。「追加アプリを考慮しての提案です。型落ち呼ばわりするとは、お客様こそ失礼極まりない。この提案を受けるか否か改めて返事を下さい」と言ってしまいました。後日この提案どおりにしてくれと連絡がありました。
苦情客との対応では、その交渉の過程でお互い歩み寄って着地点を見つけることは大切ですが、メーカーの弱みに付け込んで次々に要求を拡大するこのお客様には断固とした歯止めが必要と思いました。私たちはお客様の意向に添って出来る限りのことはいたしますが、お互いに自ずから限度はある。お客様の仰ることが全てではないと感じました。
次の事案は、お客様のペースに乗ってしまったら大変な事になるという事案です。
お客様相談室の担当とコールセンターの責任者がお客様宅を訪問することになりました。原因が何であったか憶えていませんが、訪問予定時間から1時間程した頃、担当から連絡が入り、「突然、訪問先が駅前の喫茶店に変更され、行くと首からプラカードを下げた女性が大声で、“商品は粗悪だ、対応は酷い、担当者はクビだ!”と叫ぶので対応出来ない。引き上げます」とのこと。直後にその女性から電話が入り「責任者を出せ!おたくの担当は客の話も聞かず、謝りもせず帰ってしまう。とんでもない!隣の席の人も酷いと言っている。代わるから状況を聞きなさい」と言われます。第三者を巻き込んでご自分の正当性を主張しようとのことかもしれません。「お伺いした二人から報告を受け私が判断しますから、それには及びません。お断りします」と申し上げ、一旦電話を切りました。
今度は、代理の者だという男性(ドスのきいた声)から電話です。「担当者をよこせ!客対応とはどういうものか俺が教育して上げよう。さもなくば、新聞社や雑誌社にこのことを言うぞ!本社に抗議行動を起こすぞ!」。左翼系団体を匂わして、脅しを掛けてきます。
「担当者から事情は聞いています。私の判断では当方の行動はやむなくとっただけです。問題ありません。交渉は当事者どうしで行います」と申しあげました。
今にして思えば、隣の席の人はこの男性だったのではないかと推測されます。電話を代わらずに良かったとつくづく思います。もし言われたとおりにしていたら、もっと大きな問題に発展したかもしれません。社内的にも個人的にも「私にはクレーム対応は無理」との結果になっていたと思います。
このようなことに遭遇して、これから先やっていけるかしらと不安に感じていました。
そんな折、消費者関連専門家会議(ACAP)で交換した名刺の中で「消費生活アドバイザー」なるものを知りました。お客様相談室をやっていくなら自己研鑽のつもりでチャレンジするのもいいかなと感じました。
先の事案がなかったら、ACAPで名刺交換しなかったら、25期のいささか歳をくった新人アドバイザー中島はなかったし皆さんとお会いすることもなかったと思います。
これからも皆さんとご一緒させて頂き、生涯社会と係わっていける人になりたいと願っています。宜しくお願いします。
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